2026年7月23日
学習指導要領の改訂に向けて
「はどめ規定」の撤廃と包括的性教育の導入を求める声明
DPI女性障害者ネットワーク
代表 藤原久美子
私たち、DPI女性障害者ネットワークは、障害のある人の「性と生殖の健康と権利(SRHR)」を保障し、障害のある人たちが主体的に人生を生きていく力をつけるために学習指導要領の「はどめ規定」の撤廃と包括的性教育の導入を強く求めます。
現行の学習指導要領には、以前から撤廃を求める多くの声があるにもかかわらず、受精に至る過程および妊娠の経過、つまり性交について取り扱わないこととする、いわゆる「はどめ規定」が存在します。精子や卵子、受精卵や妊娠については教えながら、この「はどめ規定」があることによって、「性交を教えてはならない」という圧力が教育現場にかかり、性教育の授業を困難にしています。
「はどめ規定」は、今回の学習指導要領改訂に際しても、維持される見通しであるという報道がなされました。今後10年間も、現在の状態を続け、子どもたちを適切な性教育を受けることができない状況のなかに放置するのでしょうか。
障害のある人たちは、優生保護法によって性と生殖における自己決定権を奪われてきました。優生保護法が母体保護法となってからも、2003年に、知的障害のある児童に対して行われていた性教育の授業内容が不適切であるという都議会議員の非難を受け、東京都教育委員会が当時の校長や教職員に対し厳重注意処分を下した「東京都立七生養護事件」が起きています。この事件によって、教育現場で性教育実践が自由にできなくなり、性教育は後退しました。処分取り消しを求めて、教員たちが提訴した「こころとからだの学習」裁判では、教員たちが勝訴しました。しかし、教育現場の委縮は今もなお続き、障害のある子どもたちは、いまだに、性教育が充分に受けられない状態に置かれています。
数々の性教育実践の中で、とくに養護学校が「狙い撃ち」された背景には、「障害者に性など関係ない」とする優生思想があったことは否めません。
性教育におけるこの20年余りの空白を取り戻し、教育が率先して優生思想をなくす一歩を進めるためにも、学習指導要領の改訂に向けて、「はどめ規定」の撤廃と、国際セクシュアリティ教育ガイダンスに基づいた包括的性教育の導入が必要です。
以下、その理由を5点、詳しく述べます。
- 性交について教えると、「寝た子を起こすのではないか」という誤解がありますが、実際には段階的に包括的性教育を行うことで、初交年齢は遅くなり性的行動に慎重になるという国際的な研究結果が出ています。また、子どもたちはSNSなどを通じて、既にさまざまな性情報にさらされており、その中には暴力的・差別的な誤情報も含まれています。教育で正しい知識と判断力を身につけることが求められています。
- 障害のある児童生徒、とくに知的障害や発達障害のある児童生徒は、経験したことがないことや抽象的なもの、曖昧な表現を理解することが難しいです。卵子と精子がどのように、どこで、どんな時に結びついて生命になるのか、性交について具体的に、イラストや図のみならず模型や人形を使って、ていねいに教えなければ、受精の意味が伝わりません。「はどめ規定」は、障害のある児童生徒の理解を大きく阻むものに他なりません。この間、障害のある女性が、性交によって妊娠が起こることを知らず、妊娠に気づかず、だれにも相談できないまま、医療機関にかかることなく、ひとりで子どもを産み、死なせてしまう事件も複数報道されています。
- 障害のある女性は、性をもつ存在として否定されてきた一方で、「弱い、告発できない」と見なされ、性暴力を受けやすい存在でもあります。思春期から学校教育の中で性交について学び、レイプの結果妊娠する可能性があること、望まない妊娠をした時、緊急避妊薬の摂取や人工妊娠中絶という方法があることも、包括的性教育のなかで伝えていくことが必要です。性交について学ぶことが、性暴力から自分の心と身体、人生を守ることに繋がります。
- 近年、特別支援学校では性的なトラブルを子どもに起こさせないようにするために、「他の人とは腕一本分離れなさい」と指導されることがあると言います。そのような指導を長く受けると、混んだ電車に乗ることができなくなってしまう人もいます。必要なのは、人間関係や社会との関わりを断つような結果を招く指導ではなく、正確な知識や適切な関係の作り方を「学ぶこと」です。そのためにも、小学校から何度も繰り返し丁寧に、科学的で正確な性にかかわる知識や人との関係性をはぐくむ包括的性教育を教えることが必要です。
- 日本も批准している「子どもの権利条約」や「障害者権利条約」には、障害のある人も「性をもつ主体」としてセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)が保障されると書かれています。国連の女性差別撤廃委員会や子どもの権利委員会からも、学習指導要領の制限や性教育の不十分さを懸念する勧告が繰り返しだされています。国際的な基準を満たすためにも、学習指導要領改訂の機会を逃すことなく、「はどめ規定」の撤廃に踏み切るべきです。
種々の社会的障壁が存在する状況で、障害のある人が自分の人生を切り開くのは、容易なことではありません。主体的に生き抜く力が必要です。それをはぐくむものが、多様性や人権の視点に立った包括的性教育です。そして、その中核にあるのが、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)の確立に向けて「性交について学ぶ」ことです。それを踏まえて、学習指導要領の改訂に当たり、「はどめ規定」の撤廃と包括的性教育の導入について、再度検討を強く求めます。
以上