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行政主導によるトリアージのガイドライン化推進の撤回を求める要望書を提出しました

DPI女性障害者ネットワークは、「行政主導によるトリアージのガイドライン化推進の撤回を求める要望書」を2021年2月9日、杉並区長宛に出しました。

 

2021年2月9日
杉並区長                                         田中 良     様
DPI女性障害者ネットワーク
代表 藤原久美子

〒101-0054
東京都千代田区神田錦町3-11-8武蔵野ビル5階 特定非営利活動法人DPI日本会議気付
電話:03-5282-3137 FAX:03-5282-0017
メール:dwnj@dpi-japan.org または dpiwomen@gmail.com
(ご連絡は電話等ではなく、メールアドレスにお願いいたします。)
Web: https://dwnj.chobi.net/

 

行政主導によるトリアージのガイドライン化推進の撤回を求める要望書

2021年1月11日の文春オンラインのインタビューで、田中区長のトリアージガイドライン化に言及した発言が事実であれば、私たちの不安と生きづらさを増幅させる虞を感じます。

私たち、DPI女性障害者ネットワークは、障害女性の自立促進と優生保護法の撤廃を目指して障害当事者女性が中心となって1986年に発足し、障害女性に影響を与える法律や制度、施策のあり方をめぐる国内外の様々な課題に取り組んできました。

2012年にかけては、障害者であることに加え女性であるために被る困難を可視化しようと、全国の仲間に呼びかけ事例を収集するとともに施策の検証を行い、「障害のある女性の生活の困難―複合差別実態調査 報告書」を発行しました。そこで明らかになったことは性的被害の多さや、経済的立場の弱さ、介助を利用することの脆弱性、性と生殖の権利が否定されがちであること、本人が希望するか否かにかかわらず、家事や育児、家族の介護やケアを期待される実情でした。障害女性が、障害者への差別と女性への差別を重ねて受けている、複合差別の実態が現れています。

私たちは、これまで、日常的にさまざまな困難を経験してきました。そして、東日本大震災などの大きな災害時には、その困難がより大きなものとなってのしかかってくることも経験しました。

私たちの社会には、障害がある人を劣る存在とみなす優生思想が存在しています。あからさまな優生思想に基づいていた「優生保護法」は、優生保護にかかわる条文を削除して「母体保護法」に変わりました。しかし、その後も、子どもが生まれる前に障害や病気等について調べる出生前診断が広がってきました。こうした技術の背後には、障害者は劣っており、産まれてこないほうがよいとする思想があると感じます。

そして、私たちは、優生思想が含まれている法律や政策、いのちの選別に反対し続けています。

新型コロナウイルスが感染拡大している今、私たちは、自分たちの命や生活が、後回しにされるのではないかという大きな不安を抱いています。特に障害のある女性、少女、セクシュアル・マイノリティなど、日常的に脆弱な立場にある人たちは、命の価値を低くされ、力をそがれる状況に置かれます。
例えば、ALSの女性は男性に比べ人工呼吸器を付ける割合が低いと言われています。( cf.「ALS患者におけるジェンダーと人工呼吸器の選択について」酒井美和、コア・エシックス (8)、171-181、2012)
性差別を背景にした男女の役割分業が、”家族のケアを担うのは女性だ”としてきたために、女性は、自らケアを受ける立場になることに否定的であることが一因と思われます。また、在宅療養を支える介助体制の不足や家族に頼れないためです。
しかし、上述したような、社会的背景がもたらす考えも「本人の意思」とされてしまう虞があります。
トリアージを行政の首長が発言することは、医療体制を拡充すべき行政の責任を回避し、ケアを受け生きている人々の主張を抑圧することにもつながるのではないでしょうか。

私たちは、新型コロナウイルスの感染拡大が進行するなかで、あらためて、障害がある人、なかでも、脆弱な立場に置かれている障害のある女性たちの生活と権利が守られる社会を強く望む立場から、下記の要望を提出します。

杉並区長田中良氏に対する要望事項

  1. 優生思想を内包するいのちの選別をする考えを改めるとともに、これまでの発言を撤回すること。
  2. 東京都知事に提出した、優生思想やいのちの選別を助長する要望書を撤回すること。
  3. 行政が医師の判断に介入することはあってはならず、行政はむしろ、医師が患者本人やその家族の意思を最大限尊重して治療を行えるよう、医療の環境整備に力をそそぐこと。
  4. 救命医療を含めた医療において、障害、性別、または年齢に基づいて人々を除外または優先順位を下げる医療はあってはならず、すべての人々が差別なく検査と治療にアクセスできるようにすること。
  5. 新型コロナウイルスへの対応やそこからの復興に関わる政策討議の場には、必ず複合差別の視点を持った障害女性をはじめとする当事者を入れること。

 

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再び声を! ~コロナ禍での障害女性の経験 中間報告~

再び声を! ~コロナ禍での障害女性の経験 中間報告~

昨年6月1日にスタートした「コロナ禍障害女性の声」のメールフォームには現在21通のメールが寄せられています。ご協力いただいた皆様に深く感謝申し上げます。
新型コロナウイルス感染は第三波が猛威を振るい、二度目の緊急事態を迎えて、終息の目途どころか事態は深刻化しています。
医療現場の逼迫の中、再びトリアージの声が聞こえ、感染した場合の恐怖とともに、一般の医療さえまともに受けられるのか? さらなる不安がつのっています。
また、感染拡大がもたらした社会・経済的打撃ははかり知れず、これからの世界に多大な影響を及ぼしていくことは必至です。
障害女性、その他マイノリティーの立場にある人々の命や暮らしがこれ以上脅かされることがないよう、私たちは今後とも障害女性の声を集め、社会に訴え続けていきたいと考えています。
あらためて投稿を呼びかけるとともに、今まで寄せられた経験をご報告いたします。
メールフォームの投稿者は肢体不自由の方が多く、視覚障害、難病、精神、高次脳機能障害、その他障害が重複している女性もいました。
40歳代と50歳代が比較的多かったものの、20歳代から70歳以上と、幅広い年代の方から投稿がありました。
地域としては東京・大阪・愛知といった大都市のほか、東北、甲信越、四国地方からのメールもありました。
生きにくいと感じる経験は昨年の緊急事態宣言時に起こった物不足・三密に関わる介助やステイホームの問題・医療や情報アクセスへの不安、社会との関わりで感じる戸惑い等など、多様です。
コロナ禍で生きにくさを感じる障害女性は障害種別・年齢・地域を超えて存在しており、その悩みや不安も様々です。
そして寄せられた声は氷山の一角といえるのではないでしょうか。
つい最近ですが、会員の中で介助者が感染し、自身もPCR検査を受け、陰性でみんながホッとしましたが、ひたひたと感染の波がすぐそこまでやって来ているということを実感しています。

障害があり、女性であるために生きにくいと感じたご経験をぜひお寄せください。
また、この活動を多くの人にお知らせいただければありがたいです。どうぞよろしくお願いいたします。

ここからは、DPI女性障害者ネットワークの会員とその周囲の障害女性、そして投稿された声を含め、コロナ禍の障害女性の生きにくさを具体的にご紹介します。

 

■コロナ禍障害女性の生きにくさの経験

[1]外出を自粛。自分のことよりも、介助者への感染が心配。自粛することは仕方がないが、期間がわからないことが辛い。(肢体不自由)

[2]お米がなくなって以前から利用しているネットスーパーで頼もうとしたが、買占めのあおりで店舗に回しているためかお米とロールペーパーは注文できず、職場の友人にガイドしてもらい昼休みに買いに行ってやっと手に入れた状況。(視覚障害)

[3]コロナの感染拡大の中、ヘルパーの家事援助の時間数が少し減らされた。調理をヘルパーに手伝ってもらい自分で作るのだが、時間数が減り、麺類が多くなった。(知的障害)

[4]副職で介助をしている介助者から「本職の会社から、副職でもしコロナ感染したら、即退職!」と言われたということで介助ができなくなったと告げられた。「コロナが落ち着いたら、また介助に入りたい」と言われたことは、救われた。(肢体不自由)

[5]治療において障害による心身の特性が理解されるか不安。障害によって、薬の効き方などが平均と異なる場合もある。医療を提供する側も体制が整わなくなったときに、そこまでの考慮がなされるか不安。(肢体不自由)

[6]今回のような病や、それに対する留意事項、診療機関の情報を入手するにも、情報アクセス面で困難が生じている。また、ようやく、緊急通報にも使える電話リレーサービスを公共インフラとする準備が進められているところだが、現状では、非常事態で緊急通報することにも制約が大きい。

自治体によっては、新型コロナウイルスに関する相談窓口として電話のみ、または電話とFAXのみで実施している。聴覚障害者も自宅にFAXを持たない人も多く、電話とFAXのみでは連絡することさえできない状況におかれる。すでにSNSによる窓口を設けている自治体もあり非常に重要な取組である。(聴覚障害)

[7]国による支援制度の情報がコロコロ変わってしまい、どれを信じてよいのかわからず、不安がとても大きい。(知的障害)

[8]子ども二人が保育園に通っている。自粛要請により、二か月弱家で見ていた。子どもを連れての外出が困難で、以前からヘルパーを頼んでいたが、感染の可能性が高くなると思い利用しなかった。家族の協力はあったが、毎日本当に大変だった。ヘルパーが必要な時に利用できないことは不便で残念だ。(肢体不自由)

[9]女性ヘルパーは家族の事情に左右されやすい。学校休校時にこどもの世話のためキャンセルが増えた。(肢体不自由)

[10]持病に伴う月経過多、月経困難症がある。トイレットペーパーと生理用品が入手困難になった二ヶ月間は、不安と衛生維持が出来なくなるかもしれない恐怖が続いた。2倍の出血量があるため購入制限をされると足りないが、障害を理由に優先手配されるわけでもない。

トイレットペーパー、ボックスティッシュ、ポケットティッシュがつき、しまいにはキッチンペーパーで代用したが血液が十分に取れず、肌がかぶれ、買いだめしている人たちのことを憎む気持ちが沸いた。毎日感染リスクを抑えるため除菌に励んでいるが、ノーマスクの人が近づいてくれば避けなければならないのはこちらの方。ヘルプマークを押し退けて近づいてくる人も相変わらず多い。(難病)

[11]感染リスクを口実に、2週間にわたってケア提供を止められた。居住地の自治体はそのようなことは認めていない。障害者はいつなんどき、介護事業者様のお気持ちしだいで何をされるかわからない存在だと思い知らされた。(肢体不自由)

[12]介助者の感染リスクが心配。知人の介助者が濃厚接触者となり、知人もその濃厚接触者として対応され、極力接触を防ぐため必要な支援も減らされたが、自分だったらと思うと本当に恐ろしい。(肢体不自由)

[13]濃厚接触を伴う介助を受けなければ生きていけないことで、介助者に負担を与えていることが切ない。三密の徹底が必須であれば介助してもらう自分は汚れたものであるかのように感じてしまう。(肢体不自由)

[14]ヘルパー派遣が最低限に限られる、公共施設の閉鎖、コミニュニティバスの運行停止等で、外出の機会が減った。一人での外出は三密を避けることも困難。(視覚障害)

[15]外に出なかったため鬱になり、ピア活動に出られなくなり、買物や入浴ができなくなった。(精神障害)

[16]買った物を代わりにショッピングバックに入れてもらえない店が増えた。(肢体不自由)

[17]雨の日、レインコートを着て電動車いすで歩いていたら、「障害者だから防護服を着ている」「コロナにかかってしまえ」と言われた。(肢体不自由)