新型コロナウイルス感染拡大下における障害女性の権利と生活の維持に関わる要望書を提出しました

DPI女性障害者ネットワークは、「新型コロナウイルス感染拡大下における障害女性の権利と生活の維持に関わる要望書」を、2020年4月30日、内閣総理大臣、内閣府特命担当大臣、内閣府男女共同参画局長宛に出しました。

 

2020年4月30日

内閣総理大臣                                          安倍 晋三     様
内閣府特命担当大臣(男女共同参画)  橋本 聖子     様
内閣府男女共同参画局長                         池永 肇恵     様

DPI女性障害者ネットワーク
代表 藤原久美子

〒101-0054
東京都千代田区神田錦町3-11-8武蔵野ビル5階
特定非営利活動法人DPI日本会議気付
電話:03-5282-3137 FAX:03-5282-0017
メール:dwnj@dpi-japan.org または dpiwomen@gmail.com
Web: https://dwnj.chobi.net/

 

新型コロナウイルス感染拡大下における障害女性の権利と生活の維持に関わる要望書

私たち、DPI女性障害者ネットワークは、国内の個人会員による、ゆるやかなネットワーク組織です。障害女性の自立促進と優生保護法の撤廃を目指して1986年に発足し、障害女性に関する法律や制度、施策のあり方をめぐる国内外の様々な課題に取り組んできました。

2012年にかけては、障害者であることに加え女性であるために被る困難を可視化しようと、全国の仲間に呼びかけ事例を収集するとともに施策の検証を行い、「障害のある女性の生活の困難―複合差別実態調査 報告書」を発行しました。そこで明らかになったことは性的被害の多さや、経済的立場の弱さ、介助を利用することの脆弱性、性と生殖の権利が否定されがちであること、本人が希望するか否かにかかわらず、家事や育児、家族の介護やケアを期待される実情でした。

私たちは、これまで、日常的にさまざまな困難を経験してきました。そして、東日本大震災などの大きな災害時には、その困難がより大きなものとなってのしかかってくることも経験しました。

私たちの社会には、日常的に、障害がある人を劣る存在とみなす優生思想が存在しています。あからさまな優生思想に基づいていた「優生保護法」は、優生保護にかかわる条文を削除して「母体保護法」に変わりました。しかし、その後、子どもが生まれる前に障害や病気等について調べる出生前診断が広がってきました。こうした技術の背後には、障害者は劣っており、産まれてこないほうがよいとする思想があると感じます。

新型コロナウイルスが感染拡大している今、私たちは、自分たちの命や生活が、後回しにされるのではないかという大きな不安を抱いています。特に障害のある女性、少女、セクシュアル・マイノリティなど、日常的に脆弱な立場にある人たちは、命の価値を低くされ、力をそがれる状況に置かれます。

私たちは、新型コロナウイルスの感染拡大が進行するなかで、あらためて、障害がある人、なかでも、脆弱な立場に置かれている障害のある女性たちの生活と権利が守られる社会を強く望む立場から、「現在生じている困難/これから予想される困難--当事者からの声」をもとに下記の要望を提出します。

 

要望事項

  1. 緊急事態状況下における、障害のある女性を含む脆弱な立場の人に向けられるジェンダーに基づく暴力への対応と、防止に関連する施策は不可欠な施策とされる必要がある。また、相談、避難等、その各段階において、障害のある人への対応を組み込むこと。
  2. 介助派遣サービスをはじめとした障害者の日常生活支援サービスは必要不可欠なサービスであり、緊急事態の間も維持される必要がある。また、障害のある人の自立生活等のサービスが継続して運営されるために、介助者などのケアワーカーに、感染予防の知識を伝えると共に、医療現場と同様に保護具などを提供すること。ケアワーカーの賃金を上げる、特別手当を出すなど、大幅な制度改善をすること。
  3. 救命医療を含めた医療において、障害、性別、または年齢に基づいて人々を除外または優先順位を下げる医療はあってはならず、すべての人々が差別なく検査と治療にアクセスできるようにすること。
  4. 緊急事態状況下でも、セクシュアルおよびリプロダクティブヘルスに関わるサービスは不可欠であり、差別を受けずに、それらサービスを利用できるようにすること。
  5. 新型コロナウイルスに関して行政が発信する情報はアクセシブルであること。また、ICTを使った情報発信、講座開催等を実施する際には、情報アクセシビリティが確保され、情報格差の拡大につなげないようにすること。
  6. 新型コロナウイルスへの対応やそこからの復興に関わる政策討議の場には、必ず複合差別の視点を持った障害女性をはじめとする当事者を入れること。

以上

 

現在生じている困難/これから予想される困難 ―――当事者からの声

■DV、虐待、暴力について

・パートナーが、コロナ感染対策に全く無頓着で不安が絶えない。生活が脅かされている。

・在宅や施設における暴力、虐待の増加が心配される。特に、障害のある女性、子どもなど、日ごろから社会的に弱い立場に立たされやすい状況にある人は暴力の被害にあいやすいことは過去の調査からも明らかになっている。

・障害があるDV等の被害者は、相談へのアクセスがしにくく、シェルターなどに入りにくく、緊急事態においては、より困難な状況に置かれる。

■ヘルパー派遣(常時介助)

・ヘルパー一人ひとりは、手洗いやうがいを徹底しているが、多くの利用者のところに派遣されているので誰が感染し、どこからウィルスが持ち込まれるか分からない現状。心配だが介助を利用しなければ生活が出来ないので、そのリスクは受け入れている。

・泊り介助に入ることができる女性介助者が日頃から極めて少ない現状。そのなかで、感染リスクを考えて、泊り介助に入ることが困難という人がでてくると死活問題。

■ヘルパー派遣(短時間介助)

・常時介助を必要としている人よりも短時間の介助派遣を必要としている人の方が困難が少ないと考えられがちだが、短時間なので一定期間介助が無くても生活できるだろうと判断されてしまい派遣を打ち切られてしまうなど、常時介助を必要とする人とはまた異なる危機的状況にある。

・女性は、障害のあるなしにかかわらず、普段から家族のケアを担っている場合が多く、家族のケアにかかわる情報をまず入手する役割も、日用品・食料品の買い物等で、必要に応じて動く役割も、いやおうなく担う状況があり、短時間介助であっても、外出支援の制度が使えなくなることは切実な問題。

・コロナは短期間で終息するものではないので、1日や2日程度であればひとりで乗り切れる場合でも、それが長期化すれば苦しい状況に立たされるのは明らか。短時間の介助を必要とする人のことも考えて欲しい。

・普段家族と暮らしていて外出のみに介助制度を使っている人も同様に、事業所側から移動支援を断られている人がいる。移動支援については外出する代わりに室内での介助に代替えすることも認められているが周知されていない。

・事業所の一つから、行き先が三つの密に触れるとしてメールのみで依頼を一方的に拒否された。行き先について事業所にお伺いを立てなければならない状況は避けたい。

・知人の視覚障害女性(一人暮らし)から担当のガイドヘルパーがウィルス感染を恐れて急に退職し買物に困っているという話を聞いた。以前からそのヘルパーだけが彼女を担当していて、人手不足から代わりのヘルパーが派遣できないとのことだった。

・コロナの感染拡大の中、ヘルパーの家事援助の時間数が少し減らされた。調理をヘルパーに手伝ってもらい自分で作るのだが、時間数が減り、麺類が多くなった(知的障害)。

■外出・買い物

・コロナウイルスが流行ってから警戒し外出を控えている。自分自身気管が弱いので、罹患すれば重症化する恐れがある、ということもあるが、外出したことによって介助者を危険に晒して、感染させてしまう方が怖い。

・外出を自粛。自分のことよりも、介助者への感染が心配。自粛することは仕方がないが、期間がわからないことが辛い。

・お米がなくなって以前から利用しているネットスーパーで頼もうとしたが、買占めのあおりで店舗に回しているためかお米とロールペーパーは注文できず、職場の友人にガイドしてもらい昼休みに買いに行ってやっと手に入れた状況(視覚障害)。

■介助者の保護・保障

・介助者に手当てを支給し、安心して介助に当たれるようにして欲しい。また、普段から介助者不足は大きな問題なので、介助者の賃金が大幅に上がるような制度改正をして欲しい。

・ヘルパーの感染リスクがあるため、家族の介護を受けて欲しいと言われた。家族にも別の仕事があり、家族に介護を受けることもできない。ヘルパーの不安も理解できるだけに、どう対応したらよいのか、難しい。

・副職で介助をしている介助者から「本職の会社から、副職でもしコロナ感染したら、即退職!」と言われたということで介助ができなくなったと告げられた。「コロナが落ち着いたら、また介助に入りたい」と言われたことは、救われた。

■医療の利用における差別

・都内でも、障害のある人がPCR検査を受けられずにたらいまわしになった事例がある。PCR検査を受けるのにも優先順位があるのではないか。家のなかにいると孤立しやすく、どれだけ支援してくれる人がいるのかもわからない。命に係わる問題であり不安を感じる。

・障害をもつ人の入院が敬遠されないか不安。普段でも経験が無いなどを理由に障害者が入院を断られた事例がある。

・軽症者は自宅、あるいは行政が用意する宿泊所へ行くことになるが、自宅では家族に感染させる恐れがあり、一人暮らしの人は容体の急変に備えるためにも、軽症者は全員宿泊所に入所することが望ましい。介助者がいないという理由で常時介助が必要な障害者が入所を拒否されるのではないかと危惧している。

・これまでも、障害のある女性の妊娠・出産、また中絶といったセクシュアル・リプロダクティブ・ヘルスへのアクセスは保障されていたとは言えないが、緊急事態下でさらに困難になるのではないかと危惧している。

■医療の対応

・治療において障害による心身の特性が理解されるか不安。障害によって、薬の効き方などが平均と異なる場合もある。医療を提供する側も体制が整わなくなったときに、そこまでの考慮がなされるか不安。

・日常的に使っている人工呼吸器や胃ろうに関わる器具のストックが底をついた場合、それらが手に入るのか、不安。

■情報保障

・今回のような病や、それに対する留意事項、診療機関の情報を入手するにも、情報アクセス面で困難が生じている。また、ようやく、緊急通報にも使える電話リレーサービスを公共インフラとする準備が進められているところだが、現状では、非常事態で緊急通報することにも制約が大きい。

・自治体によっては、新型コロナウイルスに関する相談窓口として電話のみ、または電話とFAXのみで実施している。聴覚障害者も自宅にFAXを持たない人も多く、電話とFAXのみでは連絡することさえできない状況におかれる。すでにSNSによる窓口を設けている自治体もあり非常に重要な取組である。

■情報格差

・情報格差が、命の格差につながる。情報の入手や自分からの発信の両方が保障されるべきだ。介助者による口述筆記や代筆、ニュースの読み上げなど、ICTをつかった情報介助が必要だと感じる。

・障害者全般に言えることでもあるが、中でも女性や高齢者は、ICTに苦手意識が強い人も多く、より情報格差が広がることが懸念される。

・国による支援制度の情報がコロコロ変わってしまい、どれを信じてよいのかわからず、不安がとても大きい。(知的障害)

■孤立

・ひしひしと孤立を感じて過ごしている。

・現状の困難や制約ゆえに何かできないことがあると、まるで障害のある本人の過失であるかのように責められることもある。

以上

ダウンロードはこちら