障害がある女性の基礎的環境整備合理的配慮ガイドブック P1 インクルーシブなイベントやセミナーを企画する方へ 障害がある女性が安心して参加できるイベントをめざして [タイトル] 障害がある女性の基礎的環境整備合理的配慮ガイドブック [右側に3つのマーク] DPNJ:Disabled Peoples'International Women's Network Japan JOICEF JSPN DPI女性障害者ネットワーク [イラスト] さまざまな背景や障害を持つ大人と子どもが、笑顔で集まっている様子を描いたカラフルなイラストです。車いす利用者、義足の人、白杖を持つ人、手話をする人などがいて、みんな和やかに交流している様子が描かれています。 P2 目次 1.はじめに 03-05 2.基礎的環境整備と合理的配慮とは 06-08 3.イベント開催の具体例 09-20 4.チェックシート 21-27 5.おわりに 28 P3 1.はじめに  このガイドブックは、誰もが対等に参加できるインクルーシブなイベントを開催する際に、主催者、関係者が、障害のある人、特に障害がある女性へ配慮するポイントをまとめました。  障害がある女性が安心してイベントに参加するためには、バリアを取り除き環境を整えていくこと(基礎的環境整備)と、個人のニーズや特性に合わせた配慮(合理的配慮)が必要です。障害がある女性たちが、情報にアクセスし、サポートを受け、自らの意思で選択し、尊重されるイベントの開催に繋がることを願います。 1−1.活用方法 1.企画段階での活用 ・会場選び、ウェブサイト作成、申し込み方法などが誰にとってもアクセス可能かを確認するチェックリストとして使用できます。 ・講師や協力者、関係者への説明資料としても有効です。合理的配慮の必要性を共有することで、共通理解を促します。 2.実施準備・スタッフ研修での活用 ・参加者の多様なニーズ(例:文字・手話通訳、わかりやすい情報提供、会場設営、申し込みのしやすさ、介助者の有無、移動支援など)を事前に想定する参考資料として使えます。 ・スタッフやボランティアの研修において、障害のある女性が直面するバリアとその配慮方法を学ぶツールとして活用できます。 3.当日の運営・フォローアップでの活用 ・チェックリスト(20ページ以降)を活用することで、誰もが安心して気持ちよく参加できる環境づくりが可能になります。 ・フォローアップでは、アンケートを通じて次回に活かす振り返りとしても役立ちます。 4.他の団体・地域での普及にも ・他地域の主催者や関係者への説明ツールとして、学びのきっかけを提供します。 ・自治体や教育機関との連携にも活用できる資料として、合理的配慮の普及を促進します。 P4 1-2.障害がある女性が直面するイベント参加のバリア  障害がある人、とくに障害がある女性は、日常的に不平等な環境に置かれていることが多く、バリアに気づきにくくなってしまうことがあります。「これくらいは我慢しなければ」と思い込んだり、過去の差別や苦労の経験から、イベントへの参加をあきらめてしまうこともあります。  しかし、会場や情報保障などの基礎的な環境整備が整えば、「行ってみようかな」と思えるきっかけになります。さらに、合理的配慮について事前に話し合える場があることで、安心して参加できるようになります。  障害がある女性の声を拾い、必要なサポートを提供するには、時間や費用がかかることもあります。人手が足りない中で、負担に感じることあるでしょう。それでも、完璧を目指すのではなく、失敗を恐れず、一つひとつ積み重ねていくことが大切です。  あきらめずに、誰もが安心して過ごせる空間に近づけるよう、建設的な対話を続けていきましょう。障害がある人が参加しやすいイベントは、結果的に多様な人にとっても心地よい場になります。 1-3.障害がある女性のせつない声 ・―見過ごされがちな痛みと、静かな訴え案内の人に質問をしたとき、私ではなく介助者の顔を見て答えられました。私が話しているのに、まるで確認するかのように介助者に同意を求める。まるで子ども扱いされているようで、「自分では決められない人」と見られていると感じました。 ・バスに乗るとき、女性の介助者と一緒だと、舌打ちされたり、嫌な顔をされることがあります。でも、男性が付き添っていると、そうした反応はほとんどありません。誰と一緒にいるかで態度が変わることに、深い違和感を覚えます。 ・車椅子席には子どもが座るスペースがなく、親子で一緒に楽しみたかったのに、子どもとは離れた席になってしまいました。家族で過ごす時間が、分断されてしまうのはとても悲しいことです。 ・子どもの保育園の行事が階段のある場所で行われ、車椅子の私は参加できませんでした。親であるはずなのに、そこに「いること」が許されないような気持ちになりました。 ・子どもの遊び場で、「車椅子は危ないから」と入場を断られました。他の親は子どもと一緒に入れるのに、私は外から見守るしかありませんでした。安全の名のもとに、排除されることがあります。 ・視覚障害があるため、会場までの案内をお願いしたところ、介助のふりをして身体を触られました。信頼して頼ったはずなのに、尊厳を踏みにじられるような経験でした。 P5 1-4. 障害のある女性がSRHRに関するイベントに参加する意義  障害がある女性がイベントに参加することは、単なる「体験」ではありません。それは、自分にあたりまえにあるはずの権利を知り、実際に使えるようになるための大切な機会です。  合理的配慮ガイドブックの作成は、そうした権利の「入り口」を開くための取り組みです。イベントに参加する際、自分に必要な配慮(ニーズ)を具体的に伝えお願いすることは、遠慮ではなく当然の権利の行使です。  もしも、提案されたニーズが自分ニーズと合わないものであれば、そこで終わりではありません。対話を続けて、互いに理解を深めながら、より適切な方法を一緒に探していくことが大切です。これこそが「合理的調整」であり、障害者権利条約が求める本来の姿です。  たとえば、情報保障、移動支援、会場のバリアフリー化、安心して話せる空間づくりなど、それぞれのニーズに応じた配慮があることで、初めて「参加すること」「理解すること」「意見をもつこと」「発信すること」が可能になります。  特にSRHR(性と生殖に関する健康と権利)に関するイベントでは、障害がある女性が自分の身体や人生について考え、語り合い、選択する場が保障されることが重要です。その場に「いること」が重なると「声を出すこと」が可能になります。これらの経験を通して、「これは私の権利なんだ」と自然に認識できるようになり、結果、SRHRの実現に近づくことになります。 1-5. SRHR(性と生殖の健康と権利)とは? SRHR(えすあーるえいちあーる/Sexual and Reproductive Health and Rights)は、「すべての人が、自分のからだや性、妊娠・出産について、自分で決めることができ、そのために必要な医療や情報にアクセスできる権利」のことです。 具体的には、からだと心の健康を守る権利、性感染症の予防や治療、月経や妊娠に関する医療サービス、安心して出産・育児ができる環境 などのことを指します。 なぜ大切なの? SRHRはすべての人の「生きる・選ぶ・守られる」ための基本的な権利です。特に、女性や若者、障害のある人たちは、SRHRが守られない(自分で選ぶ権利がない、暴力や差別を受ける)ことで大きな困難を抱えることがあります。 P6 2.基礎的環境整備と合理的配慮とは 障害がある人も、障害がない人と同じように、一人ひとり自由で平等な人権をもっています。楽しみにしているイベントに参加したいのに、目が見えない(もしくは見えにくい)から、耳が聞こえない(もしくは聞こえづらい)から、大きな音や光が苦手だから、車いすに乗っているから、介助犬を連れているからなどを理由に、会場までの行く 手段がなかったり、入場を拒否されたり、舞台が見えなかったり、トイレが使えなかっ たりなどのバリアがあれば、社会全体でそれを取り除かないといけません。  まず「基礎的環境整備」を整えることが大切です。障害がある人のためではなく、はじめからバリアを取り除き、いろいろな人が参加できるように土台を整えます。例えば、申し込み方法をわかりやすくしたり、事前に資料を配布したり、会場内の移動がしやすいようにエレベーターを設置したり、トイレの数を増やしたり、疲れた時に休める場所を確保することです。  これらは障害があるなしに関わらず、いろいろな人にとって便利で、心地よい時間につながります。多様な人々が安心できるイベントを開催したい時、基礎的環境整備を整えることが大切です。  そして基礎的環境整備が整っても、一人ひとりの障害の状態は違うので、話し合いをしながら、オーダーメイドのようにサポートを提供するのが「合理的配慮」です。移動しやすい場所に駐車場を設けたり、案内係をつけたり、予約した座席が使いにくい時は変更したり、介助者の入場料を無料にすることです。話し合いながら、個々のニーズに合わせて、考えます。  また同じ障害でも、その人の年齢や、性別、その日の体調や天候などによっても、必要なことが変わります。臨機応変に対応することが求められますが、完璧にする必要はありません。話し合いながら、障害のある人の困っていることに寄り添い、提供できることを模索します。合理的配慮を増やすことで、さらにいろいろな人が安心できるイベントに繋がります。  基礎的環境整備と似た言葉に「ユニバーサルデザイン(UD)」があります。UDとは、「誰もが使いやすいように、最初から設計する」という考え方です。年齢、性別、障害の有無、文化的背景などに関係なく、すべての人が安心して参加できる社会を目指すための土台です。ユニバーサルデザインは、建物や道具、情報の設計や立案・構造・機能だけでなく、人と人がお互いを尊重し、気持ちよくコミュニケーションをするたのエチケットやマナー、心の持ち方も含まれます。 P7 2-1 合理的配慮の基本的な考え方 合理的配慮とは、障害のある人が他の人と平等に生活したり、働いたりするために必要なサポートや調整のことを指します。 試験や職場だけではなく、イベントやセミナーに参加するときも同様に合理的配慮が適用できます。 これは単なる「親切」や「好意」ではなく、法的に求められる義務です。また、障害者手帳の所持は問いません。 申し出があった時、丁寧に話し合いをし、できる方法を模索し、バリアをとりのぞきましょう。 1.社会のバリアって何? 1,物理的なバリア歩道の段差、車椅子の通行を妨げる障害物、乗降口や出入り口の段差など 2.文化・情報面のバリアタッチパネルのみの操作、音声のみによる案内、わかりにくい案内や難しい言葉など 3.制度のバリア 障害があることを理由に資格・免許等を与えないことなど 4,意識上のバリア 心ない言葉や視線、差別や偏見、無関心、障害のある人を受け入れないこと. 2 合理的配慮のNG ・「前例がありません」 合理的配慮の提供は一人ひとりの状況に応じて、柔軟に対応する必要があります。前例がないことは断る理由になりません。 ・「特別扱いできません」 合理的配慮は障害のある人もない人も同じようにできる状況を整えることが目的であり、「特別扱い」ではありません。 ・「もし何かあったら…」 漠然としたリスクだけでは断る理由になりません。どのようなリスクが生じ、リスク低減のために何ができるのか、具体的に検討する必要があります。 ・「○○障害のある人は…」同じ障害でも程度などによって適切な配慮が異なります。ひとくくりにせずに個別に検討する必要があります。 P8 2-2 合理的配慮とSRHR 私たちが望むのは、他の者との平等に参加をすること。 そのために“配慮する”ではなく“調整する”ことを「合理的配慮」とします。 1 法的な義務 合理的配慮の考え方は、2006年に国連で採択された「障害者権利条約」によって、 国際的に明確に示されました。これを受けて、日本では2013年に「障害者差別解消法」が成立し、合理的配慮の提供が一部義務化されました。法改正により、2024年4月から民間の企業や店舗なども含めて、合理的配慮の提供が完全に義務化されました。 2 事後的・個人的 基礎的環境整備は、あらかじめ用意されている「事前的」で「集団的」な配慮です。一方で、合理的配慮は「事後的」な対応です。ある特定の人がこの場に参加するために必要なことを、その都度伝え、話し合いながら調整します。 合理的配慮を実現するには、本人が自分のニーズを知り、それを具体的に伝えることが重要です。しかし、すべての人が自分のニーズをすぐに言語化できるとは限りません。そこで合理的配慮が必要と考えられる場合に、本人からの申し出がなくても、ニーズを本人に確認することが大切です。 3 配慮から 配慮には、本人の意向を確認せずに「必要だろう」と判断して行われる対応も含まれます。こうした対応が繰り返されると、本人が自分に適していない支援であっても、それを受け入れざるを得ない状況に置かれることがあります。 このような状態は、自己決定権や選択の自由を尊重するSRHRの理念に反するものと似ていま す。支援や配慮は、本人の意思に基づいて行われるべきであり、「ともに考える」姿勢が求められます。 4 合理的な調整へ SRHRの実現は、ここから始まります。 「合理的調整」は、障害のある人が他の人と平等に参加し、利用できるように、制度や環境を個別に調整することです。これは、本人の意思とニーズを尊重し、対話を通じて共に築く権利保障のプロセスです。 合理的調整は、障害のある人が「その場にいること」「その場で活躍すること」を可能にします。 SRHRの実現には、本人が中心となり、自らの選択を語り、それに応じて調整し環境を整えることが大切です。 P9 3.イベント開催の具体例 ―2025年7月開催のイベントをはじめこれまでの取り組みから、ご紹介します― 「基礎的環境整備や合理的配慮って、実際にはどう活かされているの?」 3- 1 会場と設備 【会場の手配をする際】 1.多目的のトイレを確保する。トイレで横になれる姿勢のベッドの有無確認する。 2.アートブースやポップアップや野外ステージを含む、イベントが開催されるすべての会場へ車いすで行けるか確認する。行けない際の対応はどうするか検討する。 3.身体障害者用の駐車場の確保する。 4.会場までの車椅子でのアクセスを確認する。 (階段ではなく、エレベーターやスロープを使ったルートを提示する。) 5.十分にスペースのある会場を確保する。(参加者/介助者/援助者/通訳者、 講師・ファシリテーターなどが待機や打ち合わせする場所がある)  6.Wi-fiなどのネット環境、オンライン設備が確保されているかどうか確認する。 (現地に来られない人がオンラインで参加するため。情報保障を個人のスマホや タブレットなどで利用する場合に) 【設備】   1.演台へのバリアフリールート確保や、可動式の机や椅子を準備する。スロープなど車椅子ユーザーや視覚障害者が使いやすい、フレキシブルな会場に。 2.電源スペースの確保する。(医療機器やICT機器を使用する際の充電のため)  3.照明や外光、室内温度の調整できるようにする。(感覚過敏や内部障害への対応) 4.投影のスクリーンを設置する。資料や情報保障の文字通訳などを表示のため。 5.聴覚障害者の補聴支援システムの有無やスペースを確保する。 P10 3- 2広報・申し込み 【HPやお知らせなどで、参加者が事前に確認できること】 1.ウェブサイトでは背景とテキストのコントラストを強め、白黒反転や大きくクリアなフォント(UD字体)を使用する。 2.読み上げソフト対応の、わかりやすいウェブサイトを作成する。 3.ページ内に大きなボタンとスペースを用意する。(弱視や運動障害のある人が使いやすく、目に心地よい) 4.アプリなどで申し込む際、音声対応していなかったり、方法が複雑なこともあるため、メールと電話・FAXでの問い合わせ案内を設ける。 5.動画の情報に文字や手話をつける。 6.会場名の読み方(ふりがな)、住所、地図をわかりやすく表示する。悪天候時に対応したルートや、高低差などバリアフリールートも記載する。 7.会場外のバリアフリーの設備を表示する。 8.会場内を移動するバリアフリールートの表示する。 9.飲食可能なスペースを設ける。静かに休めるスペースの有無を確認する。 10.介助者や付添い同伴を認め、入場料を無料もしくは半額などに配慮する。 11.介助者の待機スペースを設ける。 12.合理的配慮を求めるための問い合わせ窓口を明記し、担当者を配置し情報を共有する。「ここではわかりかねます」などの対応や、保留・お断りはせず、窓口や担当者に繋ぐ。 13.問い合わせ先は電話だけでなく、メールやFAXでも受け付ける。 14.事前の申し込みで、必要なサポートを記入できる(手話通訳、要約筆記、静かな部屋、託児サービスの有無など) 自由記入欄も設ける。 P11 3-3 当日の設営の準備 1.参加者の特性や要望を考慮した班編成や会場内のレイアウトを計画する。休憩時間などのタイムスケジュールを調整する。 2.車椅子の席は入りやすく、全体が見やすく、入退出がしやすい所など、数か所 設置する。介助者・付添い者の席も複数席用意する。 3.介助者、付き添い者の待機できる場所をなるべく近い所に確保する。 4 荷物置き場を設置する。緊急時の備え、移動しやすい整った通路を確保する。 5. グループは、全員の声が聞きとりやすく、顔が見える人数で編成する。  6.グループ間のスペースは十分な間隔をとる。となりのグループの会話がきこえて集中できなかったり、移動が困難になることがある。 7.グループ内で参加者同士の名札や顔が見えること、スクリーンや掲示物も見えること、筆記具など必要なものを置くスペースを考慮し、机いすを配置する。  8.付箋や黒ペンなどはグループの机の中央ではなく、個人の前に置く。 9.会場の各部屋やトイレに、わかりやすい案内表示を設置する。 10.途中退出ができ、休憩したり、気持ちを落ち着かせられる場所を設置する。  11.部屋の換気や室温調整、音響を確認する。 司会者はマイクを使用する。 12.緊急避難が必要な際のルートを確認する。 13.想定外のこともあると心に留め、柔軟な対応を心がける。トラブルやハプニング時に対応するスタッフや責任者を明確にし、余裕ある人員を配置する。 p12 3- 4 配布、使用資料について 【配布時期】  1. 文字や手話などの情報保障者へ、資料を事前に共有する。最低でも1週間前に 資料を送付する。資料は決められた期間内に作成し、一つにまとめて送る。 2. 視覚障害者への資料は、テキストデータ(修飾がないプレーンテキスト)を作成し事前に配布する。テキストデータが読めたか配布先に確認すると良い。 【デザイン・スタイル】  1.読みやすいフォント(UD字体)、デザインを使用する。 2.資料にはすべて、ページ番号・スライド番号を記載する。 3.1枚のスライドに、多くの情報を詰め込まない。見やすい工夫をする。 4.ルビをふる。(もしくはわかりやすいバージョンもつくる)固有名詞や新語を使用する場合は、説明があるとよい。英語はカタカナをふる。 5.視覚障害者には18+以上の読みやすいフォントが好ましい。見出しや強調に異なる色を使用することは、弱視の多くの人にとって読みにくい。色のコントラストを確認し、暗い背景と暗いプリントは避ける。クリーム色の紙のテキストは、白い紙よりも読みやすい。個別に確認し、見やすい資料を別途用意する。 6.点字資料や音声データ、テキストデータを提供する。  7.電子データを提供し、ダウンロードできるようにする。 【イラスト・図表・アニメーション】  1.理解の助けになる場合と、妨げになる場合があることを理解した上で使用する。 2.文字での注釈もつけ、発表時に説明することを発表者に依頼する。 3.点図を取り入れる。 P13 3-5 当日の会場で 【案内】 1.当日関わるスタッフは全員、障害のある人への対応を学ぶ時間を設ける。 2.移動の案内が必要な人には、スタッフが付き添い、会場内の移動をサポートする。同性が好ましい。 3.案内のために体にふれたり、車椅子を押すときは、「肩をさわります」などの  声をかけ、確認してからにする。 4.付き添いや介助者にではなく、障害のある人本人の顔を見て、コミュニケーションする。 5.他の利用者と同じように、丁寧な声掛けを心がける。(子ども扱いをしない) 6.視覚障害者へは案内表示を音声や誘導ブロック、触知図(触ってわかる地図)で補う。また「ここ」、「あちら」と指をさす説明でなく、「右」「左」などの言葉を使う。 7.聴覚障害のある人には、筆談やタブレット、手話通訳での案内を提供する。 8.「はい」「いいえ」「トイレ」などのイラストや写真を使用したコミュケーションボードを用意する。 9.「入口」「会計」「トイレ」など、施設の案内表示や掲示は、色や大きさ、分かりやすい表現を使う。またひらがな表示、絵表示等の配慮もする。 10.マスク着用の免除を周知する。(聴覚過敏などの場合) 11.体調が悪くなったときの窓口を案内する。 12.介助犬がいることで、行動を制限することなく、他の人と同様の参加を受け入れる。 13.長時間並ぶことが負担な人には、先に通したり、順番が来るまで待機できる場所を用意する。 14.施設利用の際、ルールを逸脱していたり、安全の確保が必要な時は、声を掛けて注意しても、繰り返す時がある。しかし落ち着いて、わかりやすい、肯定的な表現で声掛けする。(「走らないで!」⇒「歩きます」など) P14 3- 6 進行にあたって 【構成】 1.スタッフが誰であるのかがすぐにわかるよう、共通ユニフォームやバッジをつけ、それを周知する。 2. 資料の一覧リストなど、情報整理に役立つ工夫する。 3. 発言・質疑応答の形式を明確にルール化する。(順番・時間の見通し) 4. 事前にスケジュールを共有し、変更がある場合はすぐに参加者に知らせる。 5. 会場の出入りが自由であることを事前に案内し、途中入退室がしやすい雰囲気を。トイレ等も自由であることを、進行係が事前に伝え、提示する。 6. 「途中退出可」「再入室可」と明示した案内を会場の入り口に貼る。 7. 困ったときや、気分が悪くなった時への対応について説明する。 【話し方】  1. 可能な限り「平易、簡潔、短文、ゆっくり」を意識して話す。 声の大きさ や速さを確認する。 2. 途中でテキストや資料のページ数や、上下左右などを伝え、今どこを話してい るかわかるようにする。 3. ビデオ動画等については字幕、音声ガイド、もしくはそれに代わる解説を。 (例:誰が何をしているのか、場面の説明)などを必要に応じて説明する。 【情報保障】 1. 手話通訳者は見えやすい、会場前方、ステージ付近に配置する。15 20分ごとに交代するため、数名確保する。 2. 手話を使わない難聴者もいるので、要約筆記や音声認識ソフトを使う。 3. ヒアリングループを設置する。 またそれに代わるシステムを導入する。 4. チャットやテキストを使った質疑応答の機会を設ける。 5. 博物館や美術館では、可能な範囲で目の見えない人は、展示物を触って観察鑑賞できるようにしたり、学芸員が説明する。 P15 【休憩・食事】 1. 休憩時間は長めにとる。 2. いつでも休憩できる、静かな場所を確保する。 3. 強い香りを最小限に抑え、感受性の高い個人のための静かなエリアを提供する。 4. 食事制限やアレルギーのある人のための代替食品オプションを提供する。 5. 車椅子でも利用できる飲食可能な部屋用意、あるいは近隣施設を紹介する。 【講義中の撮影、録画の周知】  1.記録用の写真や動画の撮影について周知する。 2.取材などが入る時ははじめに周知する。 3.写真に写らないエリアを設ける。 【グループ分け】 常に情報保障が必要な人同士のグループにならないよう、グループの時間だけ情報保障要員を増やすなど、柔軟な対応を考える。 【発言について】  1. 誰が発言したかわかるように「名前」を言ってから発言する。  2. 早口にならないようゆっくり話す。 3. 進行役が、グループワーク参加者に「平易、簡潔、短文、ゆっくり」を意識してもらえるように働きかける。 4. 何が話されているかわかるように、ホワイトボードや模造紙などに書き出す。 5.発話に時間がかかる人もいるので、準備する時間がとれるよう、進行役は早めに 質問事項を伝える。もしくは質問する時間を何回かに分けて設ける。 P16 【雰囲気づくり】  1. 何かあったら、遠慮なく申し出ることができるような雰囲気を大事にする。 2. スタッフは共通ユニフォームやバッジをつけるなど、目印をつける。 3. 発言に関して、焦らせず、余裕をもった進行を行う。 4. どんな発言があっても、その人の存在は否定せず、肯定的に受け止める。  5. 呼吸器の警告音、途中退席、叫び声に聞こえるような発声ががあることを参加者に周知する。 6.「もう一度言ってください」「ゆっくり話してください」「はい」「いいえ」などのカード(イエローカードや絵のカードなど)を用意する。 じっくりと待つことが、安心感や信頼につながる。 3- 7 オンラインのハイブリットの活用 障害がある人も利用できる機能をそろえた通信アプリ、Zoom、Teams、Google Meetなどを利用する。 【接続について】 1. テスト接続の機会を設ける。 2. 接続のための環境整備(ネット環境や機器の選択等)の相談にのる。 3. イベントの約15分から30分前に、講演者、共同ホスト、手話通訳者、キャプション担当者との技術チェックをする。 4. 全過程を通して、テクニカル・サポートの窓口を設ける。 P17 【講義中】  1. 名前の表示が必要になることについて、同意を得る。 (ニックネームも可などの配慮も検討する)  2. 統一された名前を表示するよう依頼する。 (テスト接続時に設定することも可能) 3. グループワークの際、手話や文字通訳が必要な時は対応を考える。 4. チャット機能は、読み上げソフトとの連動や情報過多のリスクがある。 もし使用可にする場合はルールを設定する。また書かれた発言が見落とされる ことがあるので、担当を決め、時間を設けて読み上げる。 参考:障害のある人との研修を 企画運営する上での合理的配慮(https://www.mhlw.go.jp/content/001146679.pdf) 3- 8 開催後 1.アンケートを取る。 2. 資料を共有する。 3. 問題が起きた場合、フォローアップする。 4. 次に向けた提案を考え、改善に努める。合理的配慮は完璧をめざすのではなく、8割程度の心持ちで、話し合いを重ね、改善し、柔軟に対応していくことが大切。 P18 3- 9 イベント参加者の声 ・会場が市の中心部から離れた辺鄙な場所にあり大変だった。障害のある人は移動手段が限られる。 ・エレベーターがなく、急な階段がある会場はやめてほしい。 ・あまりよいマイクではなかったのか、音がこもっていて聞き取れなかった。 ・窓が大きく明るい部屋で、日差しが強いと感覚過敏できつかった。 ・トイレ休憩がなくて困っている。 ・体調への配慮を求めたい気持ちはあったが、「漠然と合理的配慮を申し出ても、かえって余計な気遣いをされたりしないか怖い」と感じ、具体的な配慮要望はしなかった。 ・グループワークの時に隣のテーブルが近くて声が気になって集中できなかった。 ハイブリット形式のイベントで、オンライン参加では会場のやり取りが聞き取れない。 ・オンラインでの参加の際、マイクで話さない人がいると、まるで聞き取れない。 Wi-Fi 環境がないせいか、聞こえがよくない。 「精神障害・発達障害の当事者参画推進に向けたガイダンス」一般社団法人精神障害当事者会ポルケ より ・視覚障害のある女性がトイレ誘導を頼んだところ、女性に変更してくれた。 ・車いすユーザーが多数参加したが、会場に多目的トイレが一か所しかなかった。駅前や近隣のスーパーを案内したが、やはり1カ所しかないのは不便であった。会場の管理団体のメンバーにも伝え、今後の検討事項としていただいた。 ・オンラインのグループディスカッションの課題は、技術的な操作が必要で、慣れた人を配置すべき。オンライン参加者を排除してはいけないと気になる。 ・要約筆記の団体の情報保障の提供方法が、会場でPCをLAN接続してソフトを動かす 方法で、遠隔から情報保障担当者がZOOMに入るなどに対応していない。全体会では会場・オンラインも同じ内容なため、会場の要約筆記をZOOM画面に投影することでオンラインでも要約筆記を提供できたが、グループワークでは、オンライン上でのグループ(ブレイク・アウトルーム)に情報保障担当者が入る必要があるが、それができなかった。 DPI女性障害者ネットワークのアンケートより P19 ・事前に丁寧にメールでご連絡をくださったこと、会場参加か、またはオンラインかをご確認くださり、その返事として体調に応じて当日変更になるかもしれませんと返信をさせていただいたところ、わかりましたとお返事くださって、大変ありがたかったです。体調に波があるということを、それはあるよねと当然のこととして受け止めていただいたことに感謝します。 ・会場の空間に余裕があったこと、私自身は車椅子ユーザーではないですが、会場が狭いと、移動やそこにいる事だけでも、とても気を使います。ある程度の空間の余裕があると、一緒にその場に居やすいです。 ・会場でのグループ分けは、多様な属性の人が各グループに入るようにしていただけたらと思いました。 ・(ハイブリット開催の際、オンライン参加では)表示する画面数が多いと、小さなパソコンではどうしても字幕が見えづらくなるので、最小限に絞って、ページ移動も抑えていただいたほうが助かります。 ・文字通訳があったことで、聞き取れない部分についての話の内容をざっくり掴むことができました。ありがとうございました。 ・パワーポイントは弱視者には全く見えなかった。手もちの資料がほしかった。コミュニケーションが苦手な精神障害者の方が、どうしても会場で参加したいという場合があるかもしれません。そのような方のためにも、グループワークへの参加を 任意にすることが精神障害者への合理的配慮になると感じました。 2024年女性差別撤廃条約ロビイング報告会in神戸参加者アンケートより P20 4.チェックシート 基礎的環境整備としてすべての安心のため □事前の問い合わせができるメールと電話の窓口を設置 □駅やバス停から会場までのわかりやすい表示 □「途中退席可」「再入室可」と明示した案内を会場入口や進行時に提示 □休憩室を確保し、事前にアナウンス □会場移動を手伝ったり、案内するスタッフを確保 □案内するスタッフの性別や属性を多様にする(トイレの案内は同性で、など) □プログラムの変更がある時は、早めにアナウンス □介助者や付き添いの入場料を半額や無料などの配慮(障害によっては介助者が数人の場合もある) □介助者や付き添いの待機場所の確保 □緊急時の対応を確認、避難の動線確保、避難のアナウンスだけでなく、実際に案内するスタッフを準備 □想定外の質問やトラブル時の責任者、問い合わせ窓口を明記 □当事者からの研修を事前に受けるのが好ましい P21 4-1 車椅子ユーザーなど肢体不自由 □駅やバス停から会場までのバリアフリーアクセス明記 □バリアフリーな会場確保、エレベーターの大きさを明記 □バリアフリールートのわかりやすい表示 □車椅子用駐車場の確保 □車椅子用トイレの数、大きさ、トイレ内のベッドの有無  □座席までのアクセス、座席のまわりの広さを確認 □演台のへのアクセス確保 □可動式の机や椅子を用意 □デジタル対応のデータを提供 □介助犬への対応 □充電スペース  □利用可能な飲食の部屋、あるいは近隣施設を紹介 P22 4-2 聴覚障害・盲ろう □手話通訳者等や要約筆記者等の配置 □すべての係が筆談やタブレットを使える □身振りや指差し、簡単な手話ができる □動画の字幕や要約 □事前にスケジュール共有、変更の場合はすぐ知らせる □手話通訳者等は会場前方、ステージ付近に配置 □チャットやテキストを使った質疑応答の機会を設ける □グループワークでの情報保障の対応 □オンラインの時の文字の表出が、アプリまたはブラウザの場合は、別に案内を送る □文字や手話が見えているか □問い合わせ窓口はメールやFAX □通訳者のスペース・可動式の机や椅子を確保する P23 4-3 視覚障害・盲ろう □駅からの近いなど、会場までアクセスしやすい場所を確保 □会場までのわかりやすいアクセス方法を提示 □必要があれば最寄駅から会場までの案内 □ウェブサイトの読み上げソフト対応 □会場案内を方向が分かるように音声や誘導ブロック、触知図で示す □床に物がなく、ぶつかるものがない、安全な動線確保 □盲導犬の待機場所確保 □「名前」を言ってから発言 □テキストデータで資料を事前配布 □点字資料や音声データの提供 □動画、イラスト、図形、アニメーションへの注釈説明文 □発表者は講演中、資料を口頭で随時説明 □触れることのできる展示物や案内者からの説明 □オンラインでは障害者サポートが整ったアプリを使用 P24 4-4 発達障害 □筆談やタブレットなど視覚でのコミュニケーションも用意 □読み上げソフトを対応のわかりやすウェブサイト □申し込みやサポートの問い合わせ設置(電話とメール) □長時間並べない人へ別ルートでの案内 □わかりやすい、短文、ゆっくりな言葉づかいでの対応 □コミュニケーションボードの使用 □順番・時間の見通しの説明、変更時のお知らせ □グループ間に十分なスペースを確保  □静かで、スペースのある休憩室 □換気や室温、照明、音響の調整 □資料の電子データ、見やすい資料 □わかりやすい案内表示 P25 4-5 知的障害 □会場やプログラムなど、最低限の必要な情報を、1枚の紙にまとめて提供 □多目的トイレの確保 □長時間並べない時、別ルートでの案内。順番がきたら知らせる □トイレや休憩スペースについてアナウンス □わかりやすい、短文で、ゆっくりな言葉での対応 □わかりやすい資料 □わかりやすい案内表示 □順番・時間の見通しの説明、変更時のお知らせ □静かでスペースのある休憩室を確保 □換気や室温、照明、音響の調整 P26 4-6 精神障害 □わかりやすいウェブサイト □長時間並べない人への別ルートでの案内 □安心して参加できる雰囲気づくり(圧迫感のない会場) □順番・時間の見通しの説明、変更時はすぐに伝える □会場の出入りが自由であることを事前に案内し、途中入退室がしやすい雰囲気をつくる □休憩中の「無理に会話しなくてもよい」雰囲気づくり □静かに過ごせるスペースのある休憩室の確保 □換気や室温、照明、音響の調整 「精神障害・発達障害の当事者参画推進に向けたガイダンス」 一般社団法人精神障害当事者会ポルケより P27 4-7 内部障害・難病 □医療機器(酸素ボンベ、吸引機など)の持ち込みを許可 □順番・時間の見通しの説明、変更時のお知らせ □途中退出、静かな、スペースのある休憩室の対応 □換気や室温、照明、音響の調整 □充電スペース確保。席の近くにあることが望ましい □食事の場所、特別食の対応、対応できる近隣施設の紹介 □発言の際、時間がかかることがあるので、はじめに質問事項を伝えたり、発言準備する時間を設置。質問の受付も数回設ける □車椅子の大きさによってはトイレやエレベーターに入れないので、大きさを事前に伝える P28 5.おわりに  「リーズナブルアコモデーション」は、日本語では「合理的配慮」と訳されます が、私たちのイベントを振り返ると、「適切な(理にかなった)調整」という言葉の方が現実的に感じられます。「配慮」という表現には「してあげる」「してもらう」というニュアンスが強く、誤解や不平等な印象を生む可能性があるからです。想定されていなかったことで起きる問題(不備)をその場の話し合いでお互いに納得のいく形で歩み寄るものです。  障害のある女性にやさしいイベントを目指すのではありません。私たちが参加し やすいイベントはすべての人にとっても参加しやすいものですから、環境整備や合理的配慮があたりまえになることを目指します。これによって、インクルーシブな社会が実現するのです。  最後に、このガイドブックを作成するにあたり、ご協力くださった方々に心から感謝申し上げます。 (2025年7月) 発行日 2025年8月15日 編集・発行 DPI女性障害者ネットワーク メールアドレス dpiwomen@gmail.com ホームページ https://dwnj.chobi.net/ この報告書は、テキストデータがあります。 本書は「ジョイセフ」委託事業で作成しました。 転載・引用の際は出典(DPI女性障害者ネットワーク作成合理的配慮ガイドブック2025年8月版)を明記し、 無断転載は禁止します。 [イラスト] 車いす利用者や義足の人を含む4人が、大きな赤い旗を掲げて腕を高く上げ、力強く前へ進んでいる様子が描かれている。 END